動画サイトとブログで相互補完
『最新映画ニュース』はUSEN(当時)が運営する、人気俳優・女優のインタビューや、新作映画の舞台挨拶や記者会見の模様、アメリカの公開収ランキングなどといった最新の映画情報が、日々更新されているニュースサイトだ。
■スピードを重視してTypePad(現Lekumo ビジネスブログ)を選択
『最新映画ニュース』がオープンしたのは2007年9月のこと。USEN(当時)はこの『最新映画ニュース』以外にも、ハリウッドセレブの動向を伝える『セレブ最新情報』、キャスターの土屋晴乃さんが毎週映画のレビューと、プライベートな生活などを不定期で書いている『土屋晴乃のシネマグラス』というコンテンツをLekumo ビジネスブログで配信している。
これら3サイトの運営を統括するUSEN・GyaO事業本部 シーエスGyaO局の松村知恵美さんにTypePad(現Lekumo ビジネスブログ)を導入した理由を尋ねてみた。
「元々、最新映画ニュースの前身に当たるギャガ・クロスメディア・マーケティング運営の『CINEMA COMIN'SOON』という映画情報サイトのコーナーをMovable Typeを使って運用していたんです。それが、運営母体がUSENに移り、そのサイトがGyaOの下で引き継がれることになったんです」。
『最新映画ニュース』のスタッフは、すでにクローズした『CINEMA COMIN'SOON』のスタッフから引き継がれているという。そのため、スタッフがMovable Typeの扱いに慣れていたため、操作感がまったく同じであるTypePad(現Lekumo ビジネスブログ)での更新作業にスムースに移行できたという。
「新体制になって、すぐに配信を始めたかったというのもTypePad(現Lekumo ビジネスブログ)を選んだ理由のひとつです。サーバーを用意して、Movable Typeでいちから構築すると技術的な知識が必要になりますが、TypePadならお任せでできますから(※)。私を含め、更新や管理を行うのは、日頃は映画配給会社さんとやり取りをメインにしているスタッフばかりです。技術的な部分はよくわかっていないスタッフが多いので」。
※TypePad(現Lekumo ビジネスブログ)はASP型のブログサービスなので、サーバーの用意や構築の手間がかからない。
『最新映画ニュース』『セレブ最新情報』『土屋晴乃のシネマグラス』という3つのブログを更新するスタッフは、松村さんを含め総勢4名。記事などを書くのは外部の映画ライターの仕事で、TypePad(現Lekumo ビジネスブログ)上に下書きとして原稿をアップするまでの作業を依頼している。その下書きの内容を確認し、記者会見などに自ら足を運んで撮影した写真などを添え、最終的にブログ上にアップするのがスタッフの仕事なのだという。ブログ専属のスタッフではなく、皆、メインの仕事を抱えながら行っているという。
『土屋晴乃のシネマグラス』もLekumo ビジネスブログを利用し、映画のレビューなどを発信している
■RSSを活用したクロスメディア展開
現在、『最新映画ニュース』と他の2サイトは『GyaO』のGyaOの映画チャンネル内にある「最新映画ナビ」下に置かれているそうだ。GyaOはUSENが運営する無料動画配信サイトで、さまざまな動画コンテンツが用意されているが、『最新映画ニュース』はその中の「映画チャンネル」に紐付けられている。
GyaOの映画チャンネル内にある「最新映画ナビ」には、新作映画の予告編や有名俳優たちのインタビューといった動画コンテンツが多数並んでおり、その下にニュース記事の見出し一覧が並んでいる。この見出しをクリックすると、はじめて『最新映画ニュース』ブログに飛ぶようになっている。これはRSSを利用したもので、『最新映画ニュース』のエントリーのRSSをGyaOのサイト上で読み込み、記事の写真と見出しが表示されるという作りになっている。
「 『最新映画ニュース』単体でもひとつのメディアとして成り立たせつつも、GyaOの映画カテゴリーへのコンテンツ供給するという役割も担っています。いわゆるクロスメディア展開ですね。GyaO自体は動画に特化したCMSを使用して作成されていますし、GyaOのサーバー上にブログを載せるのは避けて、外部のサーバーを利用してドメインマッピングでリンクさせたいと思ったんですね。それを考えると、TypePadが適当だったというのもあります」。
「クロスメディア」とはひとつのコンテンツを複数のメディアに流すこと。この場合、『最新映画ニュース』はひとつのコンテンツだが、これを単体のブログで発信するだけではなく、GyaOの映画カテゴリーのニュースとしても配信されているのだ。それを可能にするのがRSSであり、ニュース配信のCMSとしてブログを利用することのメリットともいえるだろう。
■動画コンテンツをテキストで補完する
『最新映画ニュース』の主な役割のひとつに、GyaOの"本体"である動画コンテンツへの集客がある。
「GyaOのメインコンテンツはあくまでも、動画なんです。文字や写真のブログは、動画コンテンツを相互補完するものという位置付けです。ある俳優さんのインタビューにしても、動画では編集されて短くなったものが載るんですね。もっと読みたい人は、テキストで"全文をどうぞ"とブログにリンクを張ってあります」。
この「相互補完」こそ、まさに『最新映画ニュース』という事例のもっとも興味深いところといえそうだ。動画コンテンツの弱い部分をブログで補っている。
有名俳優のインタビューを動画の部分だけでなく、全文を読みたいといったような、情報の「補完」という部分もあるが、松村さんのいう「相互補完」の意味はそれだけでない。『最新映画ニュース』の記事は、「 "映画タイトル""人名"インタビュー」のように、検索エンジンに引っかかりやすいSEOを意識したタイトルが付けられている。これは、情報を探している人にダイレクトに届く工夫だが、ブログの高いSEO効果を利用して、動画コンテンツの集客に結びつけるという効果もある。また、インタビューをテキストにすることで検索エンジンなどからのアクセス機会を増やすことにもつながるだろう。それだけでなく、サイトの更新頻度を上げることも集客につながる要因だ。リッチコンテンツの場合、更新頻度という部分は弱点になりやすいが、それはブログによるこまめな情報発信で補なうことができるだろう。動画、テキスト、それぞれの強みを生かした「相互補完」がGyaOの映画チャンネルの中で行われているのだ。
今回の取材の時点では、サイトオープンから半年に満たない時期であり、本来期待したほどの集客を稼いでいるわけではないとのことだが、アクセス数は順調に増えているという。
「オープン当初からは3~4倍には増えていますが、想定ほどまだ増えていない状況です。検索サイトからのアクセスは順調に増えていますけど。今は新作映画の予告やインタビュー、ニュースといった情報を扱っているだけですけど、うまく回るようになれば、劇場の情報やスケジュールなど、さらに映画に関する情報を扱って便利なサイトを目指せると思います」。
この事例は「クロスメディア」「動画とテキストの相互補完」という2つのキーワードでまとめることができそうだ。リッチな動画サイトの足りない部分を、小回りの利くブログで穴埋めする。玄関口を複数にすることで、集客のための導線を増やすことにつなげている。リッチコンテンツとTypePadを「相互補完」的に組み合わせることによる理想的な環境作りに成功している事例といるだろう。
お話を伺った松村さん
事例データ
・Lekumo ビジネスブログ
・ブログをはじめた時期:2007年9月
・はじめた理由:短期間で最新ニュース発信の環境を構築したかったので
・制作を担当したのは:社内
・何か手ごたえはありましたか?:まだ目標には届いていないが、アクセス数は順調に増えている
(文:速水 健朗)