エヌ・ティ・ティ・コムウェア株式会社(略称NTTコムウェア)はNTTグループに属するシステム開発会社だ。同社では2010年3月より社内イントラネット上でMovable Typeを使って構築された社内FAQサイト「教えてぽー太郎」の運用を開始している。サイト立ち上げの目的や実際の運用状況などについて、同社CRM&ビリング・ソリューション事業本部 事業推進部企画担当 担当課長の吾妻克美さん、CRM&ビリング・ソリューション事業本部 事業推進部 企画担当(KSP)の堀敦子さん、C&B事業本部 事業推進部 企画担当の佐藤耕作さんにお話しを伺った。
「教えてぽー太郎」システム概要
「教えてぽー太郎」は、利用者から投稿される様々な質問・相談に対して、同じく利用者が回答を返すことによってナレッジを蓄積していく「教えてgoo」に似た社内FAQサイト。
閲覧は社内イントラネット内に制限されており、質問と回答を行うためには認証が必要(閲覧のみの場合は不要)となっている。
内部的にはひとつの質問がひとつのブログエントリーとなっており、回答はそのエントリーのコメントとして追加される形だ。
質問内容は「事務手続総務労務」、「技術・ノウハウ」、「趣味生活一般」、「営業提案活動」、「設計・製造・運用・開発」、「ソリューション・商品」の6つのカテゴリーに分類され、質問時に投稿者がプルダウンメニューで選択することになる。 また、質問・回答には登録時に決めたハンドルネームが表示されるが、チェックボックスで「非表示」にすることも可能になっている。
導入開始時の苦労
パイロット版の稼働は2009年の8月だが、当初はコンテンツがほとんどなかったため、まずはナレッジに興味がある人を集めてサポーターを作り、その中での限定運用となった。
「まずサポーターの人達に集まってもらい、自分が質問するとしたらどんなことを聞きたいかをポストイットに書いてもらったんです。次にその質問に答えられる人はそこに回答を書き込んでもらい、最後にその質問と回答を実際にサイトに入力してもらいました。」(吾妻さん)
最初に掲載する質問の内容についてはジャンルが偏らないよう、ある程度バリエーションを考えながら。また、あまり堅苦しいと敷居が高くなってしまうので、低くすることも意識しながら質問を作ってもらったそうだ。
「事務手続きや技術などはもちろんですが、『○○へ出張に行くんだけどおみやげはなににすればいい?』、『どこのホテルが安くて近いんだ?』といった趣味一般に相当する質問も作りました。あ、こんなことも聞けるんだという安心感を与えるような、ちょっとした水先案内というか、そういう形で誘導する部分も意識しました。」(吾妻さん)
ある程度のコンテンツが入力されると、メンバーが周りの若い社員に教えるなどして口コミで存在を周知させてゆき、2010年の3月に全社的に本運用が開始された。 と言っても大々的に宣伝したわけではなく、社内ホームページにバナーを貼り、トピックス欄で告知をした程度だという。
運用を開始して4ヶ月ほどが過ぎ、ユニークユーザーは4300人、一日のアクセスも500件以上と利用者は順調に増えている。
「現時点では事務手続・総務労務関連の質問が約半分を占めていることからわかるように、まじめな質問が8割以上です。とは言え中には『13階の食堂のラーメンはうどんに比べてどうして遅いんだ』、『コムウェアが入居してるビルは映画撮影が多いよね』といったくだけた質問も数件あり、仕事にも息抜きにも活用され、いい方向に向かっているなという印象です。」(吾妻さん)
現状では質問の内容について特に指導・指示はしておらず今後も予定はない。若い社員の質問に対して課長や部長が答えるといったケースも多いそうだ。
ナレッジシステム導入の目的
NTTコムウェアのナレッジシステム構築の試みは2006年11月に遡る。当時C&B事業本部の本部長だった現社長の杉本迪雄氏の指示により、吾妻さん率いるKSP(Knowledge Security Promotion)というプロジェクトがスタートした。
実はナレッジに関しては、それまで社内でも何度か失敗を繰り返していたということもあり、吾妻さんは先端的にナレッジに取り組んでいるKDIという富士ゼロックス内のグループにコンサルティングを依頼することにした。
最初に作製したのはWikiを使って構築したシステムに、業務で使用する知財部などから提供された様々なデータを蓄積する「コムペディア」というプロジェクトだ。さらにそのデータベースを効率的に参照するため、オラクルのエンタープライズサーチも導入。これは社内の他のシステム内のデータも検索対象に含むことができる。
ただ、Wiki独特のUIは初心者には扱いづらく、投稿のしかたがわからないという声も多
かったという。
「Wikiとサーチエンジンの組み合わせでシステム的にはかなりいいものができたので、次は必要な情報を求めている人に的確に提供するコンシェルジュ的な人材が必要だねという話しになりました。」(吾妻さん)
ところが、蓄積したナレッジの内容は営業・技術・事務処理など多岐にわたるため、コンシェルジュの役割を果たすことができる人材が見つからない。
「確かにそんなスーパーマンはいません。だったら全社・全員がコンシェルジュになればいい。総務についても技術についても知っている人が相談にのってあげればいいという、スーパーマンから集合知への発想の転換が『教えてぽー太郎』開発の直接のきっかけですね。」(吾妻さん)
Movable Typeでの開発
こうして社内FAQサイト『教えてぽー太郎』の企画が始まった。
「サイトのアイディアはできたので、それをどうやって作ればいいのかすぐさま富士ゼロックスさんに相談に行きました。すぐにいくつか開発環境の候補をあげていただき、その中にMovable Typeが入っていたのです。」(吾妻さん)
候補の中からMovable Typeが選ばれた理由はなんだろうか。
「とにかく開発期間が短かかったため、標準の機能が充実しているものを選ぶ必要がありました。その点Movable Typeはコミュニティ機能を始め必要な機能の多くが実装されていました。また、社内認証システムやエンタープライズサーチなど他システムとの連携もあるので安定性も重視しました、さらに商用運用なのでライセンスがしっかりしている必要もあります。これらを勘案したうえ、たまたまプライベートで利用していたスタッフの推薦もあり最終的にMovable Typeを選択しました。」(堀さん)
開発ベンダーには、同じく富士ゼロックスから紹介された3,4社の中からスカイアークシステムが選ばれた。
「グループ会社でMovable Typeを使ったシステムの構築実績があるというのも理由のひとつですが、それ以上に仕様のリクエストをした際、『これはできる・できない』という回答がその場ですぐに返ってきたというのが大きかったです。これはなんとかいけるかもしれないと先が見えるのが伝わってきたのです。」(吾妻さん)
このような経緯で2008年の10月にサイトの開発がスタートした。短期間の開発だったため、かなり苦労も多かったという。
「とにかく時間がなかったため、パッケージそのものの機能が少なかったら間に合わなかったと思います。また、シングルサインオンを実現するためには独自の社内認証システムを使用する必要があり、社内ネットワークに接続しないと実証実験ができないため、開発・試験環境を構築するのも大変でした。」(佐藤さん)
導入から4ヶ月たって
取材した時点で、サイト訪問者はユニークユーザー数で4350。うち登録ユーザーは735名だ。サイトには262件の質問が投稿され、そこには817の回答を含むコメントが寄せられている。1つの質問に対して4近くの反応があるということでかなり活用されていると言っていいだろう。
短期間で利用者が増えた理由を運用側ではどのように考えているのだろうか。
「このようなサービスはトップダウンでは必ず失敗するということが経験値でわかっています。もちろん最初は必要ですが、一般社員からの共感共鳴が一番強い力になるのです。ですからそれを刺激するための施策を日々考えています。」(吾妻さん)
「教えてぽー太郎」というサイト名や、イラストを使用したかわいいバナーもその施策のひとつだ。
「このサイト名は会議中にスカイアークシステムさんの社長がなにげなくつぶやいたものです。うちはとにかく固い社風なので、せめて名前くらいは柔らかくしようと思い、この名前にしました。」(吾妻さん)
もちろんサイト活性化のための地道な努力も欠かさない。
「パイロット版を作った時のメンバーには引き続きサポートをお願いしています。メーリングリストを作成し、質問が来るといち早くお知らせして率先して書き込んでもらっています。また、毎月利用統計のレポートを作成し、社内ホームページのトピックスで公開し注意喚起も行っています。」(吾妻さん)
ただし時にはトップダウンが効果的に働く時もあるという。
社長にも、対話会の後の多少カジュアルな場においてですが、「ぽー太郎」に投稿された、くだけた内容の話題を取り上げていただいたりしたそうです。仕事とあまり関係のない柔らかい話題から触れられ、その場も和んだそうです。このように、オープンなトップダウンはいいのです。」(吾妻さん)
今後も、トップページの改良や詳しいログの取得などのマイナーチェンジが計画されているという。Movable Typeを使用した社内イントラ・ナレッジサイト構築の成功事例として参考になる点は多いだろう。
左から佐藤耕作さん、吾妻克美さん、堀敦子さん、市川博之さん
事例データ
- Movable Type Advanced(旧Enterprise)
- サイトを公開したのは:2009年8月試験運用開始、2010年3月全社公開
- はじめた理由:社内ナレッジの共有、集合知の活用
- 制作を担当したのは:株式会社スカイアークシステム
- 何か手ごたえはありましたか?:多くの利用者を集めサイトは活性化している