「生涯学習のユーキャン」を掲げ、主に社会人を中心とした資格系の通信講座や、趣味、教養系の講座などの通信教育事業を幅広く展開する株式会社ユーキャン。受講スタイルの多様化に応えるべく、Webの活用に注力する同社は、受講者向けのクローズドな学習支援サイトで提供する一部コンテンツの管理ツールに、「Movable Type」(MT)をクラウド上で利用できるマネージドサービス「Movable Type クラウド版」(MTクラウド)を採用。ユーキャンの島崎貴之さんと河内玲子さんに、採用の経緯や効果についてお話をお伺いした。
受講生の満足度向上と担当者の省力化という課題に対し、「デジタル化」が喫緊の課題
通信講座をはじめとする教育事業や、出版、物販などの事業を手がけるユーキャン。同社の教育事業部門では、多様化する受講者の受講スタイルに対応していくため、講座の内容に応じ、教材などの「デジタル化」を進めている。Webの活用という点について、同社 教育事業部 講座企画1部 5課 課長の島崎貴之さんは以下のように語る。
「弊社の講座では、受講生からお申し込みをいただくと、最初にテキスト一式をセットでお届けします。受講生はそれを使って自己学習を行い、疑問点についてのご質問と回答、添削などを随時やり取りして進めていただく、というのが受講の主な流れとなります。しかし、紙の教材のみを用いた通信教育というのはなかなか難しくなりつつあるのが現状です」(島崎さん)
一つには、多様化する受講スタイルだ。島崎さんは続ける。
「働きながら受講する方は、勉強のためのまとまった時間をとりにくいことが多く、電車の中で勉強される方も多くいらっしゃいます。ただ、電車の中で紙のテキストを広げるのは一苦労ですので、受講生向けのクローズドサイトである『学びオンライン プラス』というサービスで、スマートフォンなどを使ってデジタル形式での学習ができるようなしくみを取り入れてきました」(島崎さん)
もう一つには、講座担当者の省力化というポイントが挙げられる。
「従来から、受講生の学習継続のモチベーションアップのための情報提供として、講座に関連する情報が掲載された会報などの冊子を郵送していました。発行にあたっての紙や印刷、保管にかかるコストに加え、発送に関する担当者の業務負荷が高く、その点からも、デジタル化は一つのキーワードです」(島崎さん)
『学びオンライン プラス』では、教材テキストや動画の閲覧、確認テストなどをWeb上で受けられる機能、講師に対する質疑応答のやり取りができる機能などが提供されており、受講者は、PCやスマートフォンなどで利用することができる。同社 教育事業部 講座企画1部 5課 主任の河内玲子さんは以下のように語る。
「資格試験は問題用紙とマークシート、つまり『紙』で実施されることが多く、学習効果の点からも『紙』は撤廃できません。そのため、印刷物とWebによるハイブリッドな講座運営を模索しているところです。会報も、PDF化して『学びオンライン プラス』上に置き、随時、受講生に閲覧してもらうことにより、受講生の満足度向上や担当者の省力化が実現できるのではないかと考えました」(河内さん)
ここでネックとなったのが、システム改修にかかる時間とコストだったそうだ。
「『学びオンライン プラス』自体はスクラッチで構築しているため、システム改修一つとっても、時間とコストがかかります。また、コンテンツのアップロードやページのコーディングといった、Web周りの運用を行う専任のスタッフもいません。『学びオンライン プラス』本体に影響を及ぼさず、またWeb周りの知識が無くても簡単にページを作成する機能が拡充できればいいなと考えていました。」(河内さん)
本番環境とステージング環境を分けられる「サーバー配信」機能が選定の決め手
こうして始まった機能拡充の検討だが、MTクラウドの採用というのは、どういう経緯で決まっていったのだろうか。
「2015年5月から6月頃に行いました。いくつかの製品を検討する中で、社内で個別にMTを利用してサービスを提供していた部署があったことから、一元管理する意図もあり、MTの導入を決めました。クラウド版を選んだ決め手はサーバー配信機能でした」(河内さん)
同社ではポリシー上、本番環境にサーバーサイドのプログラムを設置することを避けている。そこで、ステージング環境と、コンテンツが公開される本番環境を分けることのできるサーバー配信の機能を備えたMTクラウドに優位性を感じたという。
「120〜130ほどある講座ごとに、それぞれの担当者がコンテンツを更新していくため、誤操作などのリスクは避けたいと考えました。こうしたリスクも、ステージング環境と、担当者ごとに細かく権限を付与することによって軽減できると考えました」(河内さん)
こうした選定を経て、2015年7月にMTクラウドが導入された。MT側の実装は、内製で2〜3週間ほどで完了し、その後、操作マニュアルの整備、社内調整などを経て、2015年11月に社内向けにリリースされた。
現在『学びオンライン プラス』は、全受講生の40〜50%が利用している。受講期間が長く、比較的ネットに対して親和性の高い宅建、FP、社労士といった資格系の講座で多く使われているという。また、サイトへのアクセスは「圧倒的にスマホ、タブレットが多い」(河内さん)のだそうだ。
法令改正などの情報のタイムラグが縮まり、受講生の学習効果や満足度の向上や、担当者の業務省力化に
MTクラウドの導入からまだ間もない状況だが、現時点で期待される導入効果について、河内さんは以下のように語る。
「会報をPDFでもお届けすることによる迅速な情報提供が挙げられます。会報での提供情報は、学習に直結した情報のものもあれば、学習継続のためのモチベーション維持を目的にしたコンテンツを掲載するものもあります。学習要素の強い会報は、受講生にきちんとバックナンバーを提供する必要がありますが、講座ごとに発行タイミングが異なり、受講生の講座開始のタイミングや、どの号まで配布済みかの管理を含めて、手作業での管理は煩雑でした。もちろん、余分に印刷するコストや保管コストが削減される効果も期待されます」(河内さん)
島崎さんは、紙のテキスト類の情報更新もポイントとして挙げる。
「最新の法令改正等に対応するためのテキストの情報更新箇所をまとめた『追補』という冊子や、配布後にテキストの表記に修正すべき点が見つかった時の訂正表などを郵送しています。とくに、法令改正に関する情報は『速報性』が求められるのですが、通常の印刷のフローだとどうしても時間がかかります。たとえば、10月頃に行われる試験で、その年の4月1日に改正された法律に基づいて出題される場合、受講生の学習スケジュールを考えると、集中的に学習時間が取れる5月の連休の前に法令改正の情報をお届けしたいところです。しかし、情報をまとめて作成~印刷~送付というステップを踏むと、どうしても試験まで2~3カ月、という時期まで『追補』のお届けをお待たせしてしまうのが実情です」(島崎さん)
もちろん、法改正は受講期間中に一度で済まない場合もあるし、改正によっては、全面的に改正される大がかりな場合もある。こうした状況に対しても、そのつど、柔軟に、迅速に確定情報を提供することが、Web上であれば可能だ。
「確定した情報から順次提供することで、テキスト内容の“バージョンアップ”のタイムラグを解消することが可能になります。受講生の試験対策にリアルタイムで活用いただけるため、学習効果の向上や、満足度の向上などに寄与できると思います」(島崎さん)
MTの管理、運用面ではどうだろうか。河内さんは、マネージドサービスならではの優位性を挙げてくれた。
「社内にはサーバーエンジニアなどの専従担当者がいないので、セキュリティパッチの適用など、クラウドで全部任せられるマネージドサービスはありがたいです」(河内さん)
現在はMTを通じて、パソコン系の講座でのサンプル素材の配布や、デジタル化した副教材の公開など、効果的な活用方法についての社内事例を増やしているところだ。
受講生に対する情報発信力を高め、さらなる価値を提供していきたい
最後に、今後の展望について聞いた。
「社内事例を増やし、MTを使って何ができるという知見を共有していきたいです。どんなコンテンツがWebに向いているか、受講生への効果検証などを含め、MTの活用方法を最適化していきたいです。それほど予算を使って作り込まなくても、すぐにコンテンツを公開できる仕組みは整備されたので、いい意味で、社内で“使い倒して”もらうための試行錯誤を繰り返していくことが課題です」(島崎さん)
「受講生に対する情報発信力を高めていきたいです。法改正情報の迅速な提供を含め、MTを活用して、受講生に対する手厚いサポートという価値をさらに高めていければと思います。システム面では、簡易ワークフローの機能や、MT上のコンテンツをePub形式で出力する電子書籍の機能など、プラグインの利用や、MTベースの高機能CMSへの移行なども視野に入れた機能拡張を検討していきたいです」(河内さん)
受講生に対するさらなる価値提供に、今後もMTクラウドが果たしていく役割は大きくなるに違いない。
写真左からユーキャンの島崎貴之さん、河内玲子さん
事例データ
- 使用した製品:Movable Type クラウド版
- ウェブサイトURL:https://mpp.u-can.jp/ ※サイトの一部でMTクラウドを導入
- ウェブサイト(MTクラウド導入部分)がオープンしたのは:2015年11月
- CMSを導入した理由:「デジタル化」による受講生の学習効果や満足度向上、担当者の業務負荷軽減を目的として
- どのような手ごたえがありましたか?:受講生向けの会報や法改正情報(追補)などの情報を迅速に提供できるようになった。ステージング環境と本番環境を分けることで誤配信のリスクも避けられ、セキュリティアップデートなどの保守、運用にかかるリソースも軽減できている