消費者と企業を結びつける場としてブログを活用
大手飲料メーカーのサントリーでは複数のブログを開設し、商品広告や広報活動に役立てている。一方的に情報を告知するだけでなく、参加型イベントも頻繁に開き、ブロガーとのコミュニケーションも積極的に行っている。それらすべてのブログを支えているのがMovable Typeだ。2008年1月に、全ブログを同じプラットフォームに統一したという。その狙いと実際の運営について、サントリー株式会社広報部の石原洋子さんにお話を伺った。
『サントリートピックス』と『サントリーグルメガイド公式ブログ』のトップページ。サントリーは、現在5つのブログを運営している
■Movable Typeにプラットフォームを統一
サントリーがブログの運営を始めたのは2006年に遡る。最初のブログは、ウイスキーの製造現場の情報を届ける「山崎蒸溜所ブログ」だった。
「実験的にブログという形式を使ってみた、R&D(Research and Development。研究開発活動のことを差す)的な意味合いがありました」。
このブログがうまく軌道にのり、続いて「サントリーグルメガイド公式ブログ」をオープン。その後もいくつかキャンペーンブログを開設するなど、順調にブログ運営が行われるようになった。しかし、当時使っていたブログサービスに、もっとフレキシブルなカスタマイズを求めるようになっていったという。
「初心者が簡単に使えるという面がある一方で、カスタマイズができないという問題があったんです。ブログをやっているうちにやりたいことが増えてきたので、それに対応できるサービスに変えたいという意見がでてきたんですね」。
そこで候補に挙がったのがMovable Typeだった。
「ほかのブログサービスも考えたのですが、結局はMovable Typeになりました。やはり、カスタマイズが自由にできるというのが一番大きな理由でしたね」。
その当時、いくつかブログの開設が企画されていたので、そのオープンにあわせてMovable Typeを導入し、さらに既存のブログの移行も同時に行った。
「2008年1月に『サントリートピックス』『BAR-NAVI公式ブログ』『natchan! blog オレンジな日々』の3つのブログをMovable Typeで立ち上げました。同時に、既存の2つのサイトも引っ越しを行い、すべてMovable Typeで運用する体勢が整いました」。
サントリーでは、ブログの運営は基本的には各部署に任せる方針だという。
「広報でこうしてほしい、などの方針を押し付けることはありません。ただ、統一プラットフォームとしてMovable Typeを導入してあるので、ブログをやりたいという要望があれば、すぐに対応できます。デザインさえ決まってしまえば、新しいブログのオープンはすぐできると思います」。
2008年1月にオープンした『BAR-NAVI公式ブログ』。敷居が高いと思われがちなバーの情報を、実際に取材しレポートしている
■3つのタイプのブログ
現在、サントリーで運営しているブログは上記のように5つあるが、性質上3つのタイプに分けられる。1つ目のタイプは、特定の商品の販促を担ったブログ。「natchan! blog オレンジな日々」がこれにあたり、清涼飲料「なっちゃん」の関連情報を、商品開発担当者と宣伝担当者が綴っている。新CMの制作風景や、キャンペーン景品の開発秘話などが週に数回のペースで更新され、いち早い情報提供と、ユーザーの親近感を得るのに役立っている。
『natchan! blog オレンジな日々』では、製品の関連情報などが発信されている
2つ目は既存サイトの情報を補足するブログだ。
「サントリーグルメガイド公式ブログとBAR-NAVI公式ブログは、ともに本体のサイトがあり、それを支えるために作りました。どちらも本体のサイトは店舗のデータべースなので、お店の基本情報はわかっても、雰囲気までは伝えることが難しい。例えばバーの場合、すごく敷居が高いイメージがあって、ひとりで入っても大丈夫なのかどうかわからないですよね。でも店のレポートがブログ記事としてあれば、どんな場所なのかをイメージしていただきやすいと思い、ブログを開設しました」。
ブログの執筆は、社内のスタッフのほか、外部のブロガーも担当している。
そして、3つ目は、会社の広報的な役割を持つブログだ。ほかのタイプのブログはそれぞれの部署が運営しているが、3つ目のタイプのブログは、石原さんの所属している広報部が直接運営にあたっている。最初にできた「山崎蒸溜所Blog」と、「サントリートピックス」がこのタイプになる。
「山崎蒸溜所は、京都の郊外にあるウイスキーの工場です。工場にはご案内係がいて、見学のご案内をしています。ブログでは、ご案内係が実際に見学をしてくださったお客様の反応も参考にしながら、ウイスキーや工場についての情報を伝えていくことを目的としています」。
「サントリートピックス」は、サントリー全体の情報を伝えていく場として用意された。
「環境保護活動や商品情報など、とりあげる内容はさまざまですが、どれもコーポレートメッセージである<水と生きるサントリー>にひもづけて、情報を掲載しています」。
『サントリートピックス』では、"水"に関連した話題が掲載されている
これによって、単なる会社のプレスリリースとはちょっと違った印象を与えるブログとなっている。
「植樹や環境活動など、マスメディアでは伝えきれない情報を発信する場として生かしたいと思っています」。
ブログ形式なら、一般の人にも興味を持って見てもらえる可能性が高くなるだろう。また、継続して活動をブログに記録していくことで、後々アーカイブとしても役立ちそうだ。
これらのブログに共通しているのが、頻繁にブロガーを対象としたイベントを開いていることだ。ワイナリー見学やセミナーなど、体験型のイベントに参加してもらい、それぞれのブログでレポートをしてもらう。そして、サントリーのブログにトラックバックをしてもらうことで、多角的な視点からイベントを伝える効果と、クチコミによる波及効果を狙っている。
「年に数回開催する工場のセミナーの場合、最初の回はブロガーを対象とする場合があります。ブロガーさんたちのレポートによって、セミナーの内容を多角的に伝えていきたいと考えています」。
実際に「ネットを見て応募したという方は増えています」とのことだ。
イベント関連のエントリーでは、ブロガーからのトラックバックが多数付いている
■トラックバックでブロガーと交流
サントリーのブログに共通しているのは、いずれもトラックバックを即時受け入れていること。スパムの削除に関しては、全社共通のガイドラインを設け、社外のスタッフに監視を委託している。掲載を保留せず、あとから削除する形態にしたのは、ユーザー側の視点を重視したためだ。
「私もそうなんですが、トラックバックが付いたかどうかが、すぐにわからないのは嫌なんですね。あとから確認するのは大変ですし」。
トラックバックへの対応からも伺るように、サントリーのブログからは、ユーザーとのコミュニケーションをなるべく重視していきたいという姿勢が伺る。
「以前と比べ、消費者が変わってきたという背景があります。ブログという情報発信ツールを持ち、モノを言う消費者になってきたときに、単に情報を発信するウェブサイトだけでなく、その人たち(ブロガー)に対応できるものが必要になってきたんですね」。
最近では、CMSを目的としてブログを始める企業も多い中、ブログの持つコミュニケーション機能に期待をよせているのだ。ブロガー対象イベントの参加者レポート記事を読むと、人間味が溢れた楽しそうな雰囲気を感じることができる。
消費者対応の良し悪しが企業評価を決めるといっても過言でない昨今、消費者とコミュニケーションを取ることの難しさは増すばかりだ。しかし、成功すれば、得られる効果は大きい。ブログを消費者とのコミュニケーションの場として明確に位置づけているサントリーの姿勢からは、多くの事柄を学びとることができる。
事例データ
・Movable Type(基本ラインセンスパック)
・サイトを公開したのは:2008年1月
・はじめた理由:消費者とのコミュニケーションの場として
・制作を担当したのは:外部
・何か手ごたえはありましたか?:ブロガーからのトラックバックなどの反響を得ることができた。
(文:森嶋 良子)