大手デベロッパーの森ビルでは、社内報を紙媒体からウェブコンテンツへと移行し、イントラネット上で配信している。先日、リニューアルを行い、CMSとしてMovable Typeを導入したという。その狙いと効果について、広報室の森澤恭子さんと田澤由梨さん、楢崎公美さんにお話を伺った。
森ビルでは、2008年8月にコーポレートウェブサイトのリニューアルを行い、コーポレートウェブサイトのCMSにもMovable Typeが採用されている。(森ビルがMovable Typeを使う理由参照)
社内向けの情報を統合
森ビルの社内報ウェブサイト「MORINET」は、イントラネットに接続しているPCから閲覧できる。1400人ほどいる森ビル社員のほか、関連会社社員など外部のユーザもアクセスが可能だ。紙媒体の社内報は以前からウェブに移行していたが、2010年9月末にサイトのリニューアルを行い、Movable Typeを導入した。
リニューアルの目的のひとつに、情報の一元化があるという。
「今回、人事部が発行する"森ビルだより"と社内報を統合しました。以前は、森ビルだよりは社内報と別のデータベースで運営しており、週一回の更新日に社内一斉メールで告知し、メールに貼られたリンクをクリックしてサーバ上にあるデータを閲覧する仕組みでした。人事関連の情報は注目度が高いので、社内報と統合することでアクセスを増やしたいという狙いがありました」(森澤さん)
リニューアル前は、「森ビルだより」のほかにもさまざまなお知らせがメールで飛び交っていたそうだ。
「一斉配信されるメールが多すぎて、どれが重要なのかわかりづらくなっていたんですね。イベントや社内割引のお知らせと、人事・業務情報が同時に全社員に送られたりして、ほんとうに大切なものが見落とされる危険がありました」(田澤さん)
そこで、社員に知らせたいイベント情報等は、すべてMORINETに集約することにし、全社メール配信は極力減らすようにした。コンテンツ内容は、人事内容や進行中のプロジェクト情報、イベント情報、社員紹介など多岐にわたっている。社内報というよりも、社員向けポータルサイトと呼ぶにふさわしい充実したサイト構成となった。
CMSの導入で更新作業を分散・軽減
リニューアル以前は、Dreamweaverを使ってサイト作成を行っていた。
「ひとりでHTMLを手書きしてサイト更新を行っていたので、私がいないと作業が完全にストップしていました」(楢崎さん)
一箇所に作業が集中すると、ちょっとしたトラブルでも更新作業が止まってしまうリスクがある。作業を分散・軽減するには、CMSの導入が効果的だ。そこで要望を3社の制作会社に伝え、コンペを行った。
「こちらから特に指定したわけではないのですが、全社の提案にMovable Typeが採用されていました」(森澤さん)
各社がMovable Typeを採用したのは偶然ではないだろう。費用や機能、カスタマイズのしやすさなど、さまざまな角度から検討した結果、同じ結論にたどり着いたといえる。同じMovable Typeを使ったシステムのなかで、制作を行った株式会社スカイアークシステムの提案を選択したのはなぜだろうか。
「コンテンツの見やすさや価格などを総合的に判断して決めました。あとは人柄ですね。また、イントラ上で運用するため、弊社のシステム部とのやり取りが必要になったのですが、セキュリティへの配慮などへの対応も信頼できました」(田澤さん)
CMSの導入後、いままで一人で行っていたサイト更新作業のフローは変化した。まず、人事部の管轄である「森ビルだより」は、人事部の担当者が更新を行い、広報室は原則的に関与していない。
「人事情報などには解禁時期が設定されているものもあるので、広報以外の別部署からも更新ができるのはいいですね」(森澤さん)
そのほかのコンテンツは、広報室が更新を担当している。広報室が原稿を執筆する記事と、他の部署から情報をもらって載せるものがある。
「他部署からの情報は、Wordファイルの形で原稿を作ってもらい、メールの添付ファイルとして受け取ります。それを基に、こちらでMovable Typeに入力を行います。簡単なお知らせの場合は、単なるメールでもらうこともありますね」(楢崎さん)
広報室が発信する情報の場合は、森澤さんや田澤さんが原稿を作り、楢崎さんが更新を行う。他部署が作成する原稿と流れは変わらないが、簡単な記事なら誰でも更新できるようになったのは大きな違いだ。
イベントカレンダーは、特に入力の手間が軽減したコンテンツだ。月毎のカレンダーになっていて、森ビルの全イベントの開催期間が一目でわかる。
「リニューアル前から同様のページはあったのですが、テーブルを組んで表示していたので入力が大変でした。今は、イベント名と期間、外部サイトへのリンクURLを入れるだけで自動で生成されるようになりました」(楢崎さん)
カレンダー形式の表示は、Movable Type標準の機能では実現が難しい。そこで、プラグインを別途作って対応した。
「この部分は、かなり開発に苦労していただきました。おかげで要望どおりの見栄えが実現しました」(田澤さん)
また、広報室で別に運用・管理されている企業ウェブサイト(http://www.mori.co.jp/)のCMSにもMovable Typeが採用されており、使い慣れているユーザーインターフェースだったことも作業の効率化の一因になっている。
検索性と回遊性をアップ
リニューアルの目的には、情報の検索性アップもあった。ひとつのシステムで全ての情報を一元管理することで、一括での検索が可能になった。
「以前は検索機能がなく、過去の記事を探し出すのが一手間でした。別のシステムで管理していた「森ビルだより」には検索機能がついていましたが、カテゴリごとで検索するなどができず、不自由を感じていました。リニューアルで、これらの課題が一体的に解決でき、便利になりましたね」(田澤さん)
記事ごとにタグ(キーワード)を設定し、情報の整理や関連付けを行う機能もMovable Typeの導入によって実現した。
「記事の下に、同じタグが付いた記事が関連記事として表示されるので、ひとつの記事から次の記事へと自然と読み進んでもらうことができます。タグは自由に設定できますが、あまり増やしてしまうと収集がつかなくなるので、今は会社のミッションとして掲げられている安全・環境・文化などのキーワードを設定しています」(楢崎さん)
社内報に求める役割とは
広報室の人員が社内報に費やす時間は、全作業量の4割ほどを占めるという。それだけ、社内報に求められる役割は大きいということだ。
「会社が大きくなると、他の部署が何をやっているかがわかりづらくなる。実際に社員同士顔を合わせる機会も減ってきます。そこで、社内報を社内情報のハブとして運用していきたいという意識はあります。社内報には、企業文化の理念を浸透させ、社員が情報を共有する場となることを期待しています。それによって、社員ひとりひとりが会社のスポークスパーソンとなるのが理想ですね」(森澤さん)
リニューアル後は、個々の社員にフォーカスを当てた記事を載せるように心がけているという。社員のコミュニケーションの場としての役割も社内報に期待しているからだ。
「人にフォーカスを当てた記事は好評ですね。実際、社員の顔写真が出ているものはクリック数が多いんです。業務に関する話題だけでなく、趣味なども取り上げています。それがきっかけで交流がはじまった例もあります」(田澤さん)
社内報が活性化するにつれて、社内情報も広報部に集まるようになってきた。
「いままではお願いして情報を提供してもらっていたのが、他部署から自然に集まってくるようになりました。今後は、更新まで各部署にまかせることも検討しています」(森澤さん)
懸案事項は、紙媒体と違って、ウェブの場合は自主的にアクセスしてもらわないと情報を伝えられないことだという。ウェブを日常的に利用する習慣のない人にどうしたら見てもらえるかは、未だ試行錯誤中とのこと。だが、アクセスやレスポンスの増加など、明らかな効果もすでに上がりはじめている。高い検索性や、情報の鮮度、双方向性などの利点は、オンライン社内報ならでは。森ビルの例は、社内報のウェブ化を検討中、またはウェブに移行したが満足できない企業にとってよい参考となるだろう。
広報室の田澤さん、森澤さん、楢崎さん
事例データ
- Movable Type
- サイトを公開したのは:2010年9月30日
- はじめた理由:CMSの導入によって更新作業の軽減を図った
- 制作を担当したのは:外部制作会社(株式会社スカイアーク)