BtoBのIT業界を長く取材してきた記者・編集者2人が、2024年9月に立ち上げたニュースメディアが、企業ITの導入事例に特化した「CaseHUB.News」だ。運営する霹靂社は、代表取締役社長でCaseHUB.News編集長の本多和幸さんと、取締役でシニアエディターの谷川耕一さんによる実質2人体制で、エンジニアを抱えず、記事の執筆から運用までを担っている。読者視点を徹底した中立的な商業メディアを、少人数でいかに安定して成り立たせるか。構築パートナーにC-M-Pを迎え、サイト基盤として選ばれたのが、Movable Type クラウド版(以下、MTクラウド)だった。本番環境と管理環境を分離した安全な運用体制をどのように構築したのか。その経緯と選定の決め手、運用の手ごたえについて、2人に聞いた。
読者を「最優先顧客」にした事例特化メディアを2人で立ち上げる
CaseHUB.Newsは、企業ITのユーザー事例に特化したニュースメディアである。IT担当者や意思決定者を主な読者とし、企業がどのような課題に対して、どんなITを導入したのかを日々のニュースとして発信している。メディアの運営は、本多さんと谷川さんの2人を中心に行っている。両氏はいずれもBtoBのIT領域で長く取材・編集に携わってきたジャーナリストだ。本多さんはBtoBメディアの編集部に約10年在籍し、後半は編集長を務めた後に独立。谷川さんも出版社や外資系マーケティングを経て、長くフリーランスの記者として活動してきた。
CaseHUB.Newsを立ち上げた経緯について本多さんは「コンテンツの作り手として長く活動してきた人間としては、記事を読んでくれる読者を『最優先の顧客』としたメディアを作りたいと考えていました。しかしご存じの通り、それは特にWebメディアではなかなか成立しづらいビジネスモデルです。その壁を打破するようなコンテンツや読者体験を提供し、広告やリードジェンだけではない新たなマネタイズ方法を模索してみたかったのです」と説明する。CaseHUB.Newsは、読者に従来のBtoB ITメディアとは異なる価値や体験を提供したいとの思いで立ち上げたものだ。
そうした観点で、メディアのテーマとして最も適していると2人が判断したのが「事例」だった。同じ業種・規模の企業がどんなIT投資をしているかは、BtoBにおける意思決定に大きな影響を与える。さらに、事例に絞って記事を蓄積し、業種・企業規模・業務・課題・製品カテゴリーといったメタデータを付与することで、単なる読み物ではなく、検索や比較、傾向分析が可能な「構造化された情報資産」として活用できるようになる。「メディアの記事は短期間で消費されがちですが、分析可能な形で蓄積することで、記事そのものに持続的な価値を持たせたかったのです」と本多さんは話す。折しも生成AIが実用段階に入り、蓄積した事例記事をもとにした二次的なコンテンツ生成や知見の抽出といった展開も視野に入っていたことが、「事例特化メディア」という選択を後押しした。
「非エンジニア2人」の運用体制が、MTクラウド選定の決め手に
CMS選定にあたり、2人がまず重視したのは「2人だけで運用が可能な点」だった。谷川さんは「運用に割けるエンジニア人材がいないため、マネージドサービスで利用できるCMSであることが大前提でした」と振り返る。当初はトレンドのヘッドレスCMSやWordPressベースのサービスも検討したが、いずれも構成やベンダーを自分たちで組み合わせて選ぶ必要があり、運用リソースのない2人には向かなかった。「我々が注力したかったのはニュースサイトの運営であってサイトの管理運用ではありません。安定して、スピーディーにコンテンツを発信し続けられることが一番でした」(谷川さん)。
本多さんはこれまで所属したメディア企業で、一覧ページや記事ページの表示に時間がかかるようになって技術チームに相談しても、改善するのに手間や時間がかかり歯がゆい思いをした経験があったという。「読者ファーストを掲げる以上、読者がストレスなく読める表示速度は譲れないポイントで、Movable Type の静的ページは大きな魅力でした」と話す。非エンジニアでも記事の公開までは手軽に行え、CMSそのものはベンダーとパートナーがサポートする体制も決め手になった。
パートナーとしてサイト構築に携わったのが、谷川さんが20年近く付き合いのあるC-M-Pだった。同社は霹靂社の体制を踏まえ、サイト基盤としてのMTクラウドに加え、本番環境と管理環境を分離するために、cherry-pick社のプラグイン「Uploader for Movable Type」を採用した。MTクラウドには標準のサーバー配信機能も備わるが、配信履歴の管理や、公開するファイルを選ぶ操作の使い勝手を重視し、より安全性の高い運用ができる Uploader が選ばれた。また、CaseHUB.Newsの要となる「絞り込み検索」機能も、MT標準の検索とは別に、要件定義から独自開発した。
「私たちのように小規模な企業が商業メディアをゼロから立ち上げる例は、そう多くありません」と本多さんは言う。実際、商業メディアがどのCMSを使っているかの情報はネット上にほとんどなく、多くは自作のシステムを積み上げているのが実情だろう。また、近年はヘッドレスCMSという選択肢も広がっている。ただし、コンテンツの公開先(デプロイ先)を自前で用意し、その保守を続ける必要がある。構築を担当したC-M-Pは、静的なサイト生成であればヘッドレスと同等の運用方法を保ちながら、より安定して運用できると判断。エンジニアのいない霹靂社の体制には、MTクラウドと Uploader の組み合わせが最もフィットすると考えた。
マネージドサービスで小さく始められ、パートナーが伴走してくれる運用体制は、潤沢な資本を背景に大きく立ち上げるメディアとは異なるCaseHUB.Newsにとって現実的な選択肢だった。
立ち上げは、時間との戦いでもあった。プロジェクトが本格始動したのは2024年5月。そこから同年9月のWebメディア公開を目標に据えた。しかも「器だけ用意して公開」ではなく、公開時点で500本の記事掲載を目指すというハードルの高い計画だった。準備期間を経て、7月ごろからはサイト構築と並行して記事執筆を開始。8月には執筆と同時にCMSへの記事投入作業も本格化した。同時期にはメタデータの項目設計や検索UIの調整も進める必要があり、C-M-Pが構築したテストサイトで毎週のように擦り合わせを重ねた。執筆やタグ付けには一部AIも利用したが、当初はほぼ手作業での対応となった。終盤には外部のリソースも活用しながら記事数を積み上げた。当初の計画には届かなかったものの、掲載本数は約450本で公開のタイミングを迎えた。
約450本から2,500本超へと成長、ページ表示速度は安定し運用負荷も小さい
公開から約1年半、CaseHUB.Newsの記事は2,500本を超えた。それでもサイトの表示パフォーマンスは、立ち上げ当初と変わらず安定している。「トラブルはほとんどなく、小規模な体制でもプロフェッショナルなニュースメディアとして常に安定してサイトを稼働させられている点は、我々のビジネスにとって最も大事なことです」(本多さん)。
マネージドサービスであることのメリットも大きい。サーバーやCMSの保守、セキュリティ対策をシックス・アパートが担うため、2人はコンテンツ制作とメディア運営に集中できている。「もしWordPressで構築していたら、OSやプラグインのバージョンアップをどう判断するかという問題に直面していたと思います。専門的な知見が必要な領域は自分たちで判断が難しいため、自動的に最新の状態に保たれるのは大きな安心材料です。セキュリティリスクが高まる中では、不可欠な仕組みだと感じています」と谷川さんは話す。
一方、運用を続ける中で改善点も見えてきた。記事が1,500本を超えたころから、記事の登録(再構築)に時間がかかるようになったのだ。原因は、一覧のページネーションが150ページ規模に達し、記事を1本更新するたびにその再構築が走っていたこと。これは読者側の表示速度に影響するものではなく、あくまで運用側の登録作業の負荷だったが、「このまま記事が増え続けると、どんどん再構築が遅くなるのではとの不安がありました」(谷川さん)。
そこでC-M-Pは該当箇所を部分的に動的処理へ切り替えて負荷を解消。サイト開設当初は結んでいなかった運用契約も、こうした継続的な改善のために伴走型で締結し、いまは定例で改善を重ねている。「450本で始めたときと、2,500本を超えた今とで、読者から見える表示は何ら変わりません」と谷川さんは手ごたえを語る。
スモールスタートできた点も、2人の体制に合っていた。「サブスクリプション型のマネージドサービスなので、初期投資を抑えつつ月額費用も自分たちのメディア規模に見合った水準で始めることができました。成長に合わせて段階的にスケールしていけるという安心感があります」(谷川さん)。
MTクラウドを用いた少人数での商業メディア立ち上げ、運用を実現したCaseHUB.Newsは、「モダンな構成にしたい」という思いと「社内にエンジニアがいない」という現実のあいだで悩む事業者にとっても、一つのモデルケースになりそうだ。
蓄積した事例を「新しい価値」へ、AIで広がる二次活用の可能性
今後の大きなテーマは、蓄積した事例コンテンツをどう新しい価値へ変えていくかだ。2026年3月にCaseHUB.Newsの記事が2,000本を突破し、その蓄積データを活用した最初の取り組みとして、5月には全記事を定性・定量の両面から分析した有料レポート「CaseHUBレポート」を公開した。今後は業種ごとに絞ったミニレポートや、3,000本到達に合わせた新たなレポートなど、蓄積したデータの分析価値を段階的に世に問うていく。将来的には、蓄積したデータそのものを何らかの形で外部に販売するサービスへと発展させる構想もある。
サイト面では、AIを生かした機能拡張を見据える。本多さんは「サイト立ち上げの時点で生成AIが登場していたこともあり、検索の高度化にとどまらず、コンテンツそのものを柔軟に活用できる基盤にしたいという思いがあった」と話す。それを受け、谷川さんも「公開して終わりではなく、MTに蓄積された記事コンテンツを二次利用・三次利用したい。そのためには、手軽にアクセスできることが重要であり、使いやすいMTであってほしい」と、MTクラウド活用のさらなる高度化に意欲を見せる。実際、AIのコード生成ツールを用いて、MTのData APIを介したデータ活用が非エンジニアでも行える環境が整いつつあり、蓄積コンテンツをAIで活用するためのハードルは着実に下がっているという。
最後に2人は、シックス・アパートとC-M-Pへの期待を次のように語った。「MTクラウドという、我々にフィットしたサービスがあったからこそ、今のメディア運営が成り立っています。感謝していますし、蓄積したデータを価値に変えていくための取り組みを、これからも一緒に形にしていけたらと思います」(本多さん)。「まずは、マネージドサービスとして安定していること。その上で、AIなどの新しい技術に継続的に対応していくことで、蓄積したコンテンツをより活用しやすい環境が整っていくことを期待しています。そうした進化があれば、これからも長い付き合いができると思います」(谷川さん)。
写真左から霹靂社の谷川耕一さん、本多和幸さん、C-M-Pの佐々木康彦さん
事例データ
- サイトURL:https://casehub.news/
- 使用した製品:Movable Type クラウド版
- 制作を担当したのは:C-M-P株式会社
- Movable Type クラウド版の利用目的:エンジニア不在の少人数体制で、事例に特化した中立な商業ニュースメディアを安定運用するため。本番環境と管理環境を分離し、セキュリティと読者向けの表示パフォーマンスを両立できる基盤を求めた。
- どのような手ごたえがありましたか?:約450本でスタートしたサイトが2,500本超に成長しても、読者向けの表示は安定。サーバーやセキュリティの保守を意識せず、2人で編集・運営に集中できている。





